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2018年10月14日 (日)

社会的連帯経済とモンドラゴン協同組合

Dscf1793※私はビルバオ大会に行く前の9月28日のこのブログに、「2018GSEFビルバオ大会事前報告書」を書いた。今回はそののつづきで、題して「社会的連帯経済とモンドラゴン協同組合」、よろしくです。

「事前報告書」の「ビルバオ大会&モンドラゴン訪問への私の関心」に即して書けば、④⑤については以下の通りです。
2010年に発覚したギリシャのデフォルト危機は欧州ソブリン危機と呼ばれた欧州経済危機に発展し、2012年にはスペイン経済危機、2014年にはポルトガルのデフォルト騒動へと広がりました。だからスペインは困窮しているのだろうと予断してバスクに行っみると、バスクの中心都市ビルバオ市は豊かであり、その郊外にあるゲルニカ市、さらに山中にあるモンドラゴン市まで、どこも豊かで美しい街でありました。スペインの中でもバスクは自治州であり、工業が盛んで平均収入も高く、GSEF大会でビルバオ市長は「バスクには1700の協同組合や社会的企業があり、多くの雇用を生み出している。・・スペイン政府も社会的経済を支持している」と語り、さらにスペイン政府の労働大臣は「ビルバオは革新的なエリアであり、このフォーラムは異なる社会をつくることに役立つであろう」と語っていました。

今回の大会には、世界84カ国から1700名あまりの人々が集まりましたが、社会的連帯経済は新しい概念であり、それぞれの取り組みにはお温度差もあります。社会的連帯経済の先端を行くモンドラゴンの代表は「協同組合が集まってコミュニティをつくることが社会変革につながる。社会的連帯経済は従来の利益追求の経済ではなく、連帯と民主化によって人間を豊かに向上させるある意味ユートピアである」と言い、フランスの代表者は「企業の定義を変えて、よりよい会社をつくっていかねば・・マクロン大統領によっても社会的経済は大切にされている。しかし、社会的経済はDGPの10%を担っているけど、人々には知られていません」と語りました。今回フランスでは「社会的連帯経済法」ができた一方、マクロンの政策は新自由主義的とも言われ、フランスからは13の自治体からの参加があったわけですが、自治体レベルではフランスに古くからある共済組合といった広い意味での社会的経済というよりは、他のEUや南米の国々の小さな自治体と同様に、雇用や福祉のための「社会的イノベーション」としての社会的連帯経済の取り組みが報告されいていました。参加国をみれば、EUやILOからの参加はありましたが、いわゆるG7の国においてはアメリカのNY市から毎回副市長の参加があるほかは、経済政策レベルでの取り組みの報告はなく、新自由主義をすすめる政権は社会的連帯経済に関心を持たず、GSEFをになっているのは新自由主義に批判的な自治体が中心で、EUや韓国や台湾や南米やアフリカからの参加がめだちました。GSEFを牽引する韓国のソウル市の朴元淳市長は、「アジアの国には社会的連帯経済の経験がない。ソウル市ではプラットフォームを立ち上げて社会的連帯経済を広げて行きたい」と語っていました。

スペインやポルトガルやフランスでは、すでに「社会的連帯経済法」が成立しており、政治経済危機がつづくイタリアでは、社会的連帯経済法というよりは社会的協同組合法がつくられ、最近では小さな自治体ではコミュニティ協同組合が試行されているそうです。デフォルトの危機が言われながらも、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアといった国々がデフォルトしないのは、やはり社会的連帯経済の領域がこれまでの市場経済に代わって雇用や経済を担いだしているのかもしれないと思うところで、ヨーロッパがEECに始まって、半世紀以上の時間をかけて統一通貨ユーロをつくり、欧州連合を成立させましたが、そこでは社会民主主義政権はふつうであり、今後の社会的連帯経済の普及も同様にすすめられるのではと思ったところでした。

次に①②③についてですが、これは私的には「モンドラゴン協同組合の可能性」ということで、今回のビルバオ大会の中心テーマは「価値」と「競争力」と「包摂的で持続可能な地域創生」の三つでした。物議も醸す「競争力」という表現が出てきた背景には、二つのことがあるように思えます。ひとつは、2007年のモンドラゴン協同組合の基幹組合であったファゴールの家電部門が倒産したことです。そしてもうひとつは、国連の持続可能な開発目標「アジェンダ2030」への対応です。社会的連帯経済というのは新しい概念ですから、GSEF大会への参加者や発表内容を見ても様々であり、上記しましたように、EUや国家レベルから見ればそれは政策であり、自治体レベルからみればそれは地域の雇用や福祉の解決策であったり、またその実行主体も、自治体であったり協同組合であったり民間の社会的企業であったりしています。しかし、その中で社会的連帯経済のいちばん具体的な例はどこかと問えば、それはやはりモンドラゴン協同組合であり、そのモンドラゴン協同組合から提起されたものが「競争力」であり、各自治体が必要とするものは「包摂的で持続可能な地域創生」であり、その全体をまとめるのが社会的連帯経済の「価値」なのであろうと思ったところです。

社会的連帯経済は発想されてまだ日も浅いのに、モンドラゴン協同組合は65年前からそれを立ち上げて、フランコ政権下のバスクの山中に人知れず「協同組合地域社会」を築き上げました。そしてヨーロッパの国々が産業社会も協同組合もいきづまった1970年代末にそこは世に知られるようになり、やがて多国籍企業、グローバリズムに対抗する労働者協同組合群が注目されて、前述したようにレイドロウは『西暦2000年における協同組合』でそれを高く評価し、イギリスにおける「ル-カス・プラン」や「社会的有用生産」に影響を与え、やがて日本や韓国からもそこを訪れる人が増えていき、今回その本部を訪問すると、日本語による説明ビデオが用意されていました。グローバリズムへの対応による海外進出でファゴールの家電部門が倒産した後、そこの組合員は他の組合に再配置されて、現在の規模は全部で98の協同組合企業があり、80800人の組合員が働いており、ファゴールはバスクはもとよりスペインを代表する企業のひとつであり、消費生協であるエロスキはスペインに2000店舗を展開しています。要は、モンドラゴン協同組合はどの国の協同組合よりも労働者協同組合を軸とした地域綜合型で突出しており、その生産は工業製品からIT関連にまで及べば、それはすでにモンドラゴンの山中で定常化することは出来ず、連帯を求めながら果敢に挑戦をするといったイメージで、モンドラゴン市長は「成長力がなければ、富を分かち合うことは出来ない」と発言していました。

もうひとつ、国連は2015年に「アジェンダ2030」をつくって、協同組合のみならず世界中の企業がその達成をめざすことになり、日本でも安倍政権が音頭を取り、経団連から青年会議所までがSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)を推進しています。パルシステムは今回のGSEFバルビオ大会には未参加でしたが、2017年にSDGsのアワードを受賞しました。SDGsには日本の一流企業の多くも参加するわけですが、もしどの一般企業も国連の基準にそった生産やサービスを行うなら、生協の商品は一般企業のそれとの差別化は難しくなり、協同組合は一流の企業たるべく大企業と競争するしかないことになります。そしてその時に何を持って協同組合は社会に対して優位性を示せるのかといえば、それはこれまでの消費組合としての「出資・利用・運営」よりは、労働者協同組合としての「Member=Worker=Owner」となるでしょう。要は、SDGsは国連によるいい取り組みだけど、私的には「どんな原材料を使っているか」だけでなくて、それを生産するために「人にどんな働き方をさせているか」の開示が必要ではと思うところです。要は、一般企業と労働者協同組合との最大の差別化は、協同組合が「Member=Worker=Owner」であることであり、社会的連帯経済を担える協同組合や社会的企業はそういう企業であるし、そのベースには労働組合と協同組合が一体化することが必要であると私は思います。本部やファゴールの工場を訪問した時の質問は、ファゴール家電部門の倒産に関することになりがちでしたが、モンドラゴンの担当者が困っていたのは説明しにくいことがあると言うよりも、モンドラゴンの要諦が「Member=Worker=Owner」にあることが理解されないことによる当惑だと私には感じられました。

果たしてモンドラゴンの協同組合は、ヨーロッパや日本や世界各国で一般化出来るのでしょうか。今回日本からは約50名の参加があり、モンドラゴンからの帰り道に訪問した小さな労働者協同組合で、誰かが「日本人が50人も来てどう思うか」と質問したら、「韓国人は500人来ます」と言われました。社会的連帯経済に力を入れる韓国は、一般協同組合法をつくって5人集まれば協同組合がつくれるようになったわけですが、モンドラゴンは1日にして成らずですから、日本もそこから始める必要があります。「ソウル宣言の会」による今回のGSEFビルバオ大会ツアーには、大会終了後の4日目にはにゲルニカ訪問、5日目にはモンドラゴン訪問というサプライズがありました。ゲルニカは1937年にファシスト軍による世界最初の無差別爆撃が行われ、それをピカソが作品にしたことで有名ですが、最初に案内されたのはゲルニカ市にある「バスク議事堂」でした。そこは、スペインから自治を許されたバスクがそこで国王から自治を認証された場所で、現在でもビスカヤ県の議事堂として使われています。私は議会はイギリスの名誉革命に始まったと思っていましたから、カトリックの封建国家であるスペインに、中世から議事堂があったというのは驚きでありました。最初は木の下で行われていた住民の集会が、やがてアッセンブリーハウスとして作られたわけですが、それはカトリック教会を兼ねていました。最初にモンドラゴンに銀行と協同組合をつくったのも、カトリックの神父のホセ・マリア・アリスメンディアリエタであったわけですが、モンドラゴン協同組合の背景にはバスクの自治とカトリックがあると思ったところです。

ゲルニカからの帰りにツアーをコディネイトしたコンサルタントのジョン・アンデルさんにビルバオ市内にあるバスクの主流政党であるバスク民族党の本部に案内されました。バスクに住むバスク人はおよそ300万人だそうですが、説明をしてくれた党の担当者もジョンさんも、みなバスク人であることに誇りをもっているのが印象的でした。そして民族主義の政党でありながら、バスク民族党はとてもオープンに私たちに連帯を表明し、「バスクを愛する人は誰でもバスク人になれます」とおっしゃっていました。なぜジョンさんは私たちをバスク民族党に案内したのか。ジョンさんの父はモンドラゴンで働き、ジョンさんはモンゴラゴン大学で起業を学んで社会的企業としてのコンサルト会社を立ち上げて、日本とバスクをつなぐ旅行企画を日本に案内しながら、モンドラゴン視察ツアーや広島とゲルニカを結ぶ活動などをしています。今回は、GSEF大会への参加だけでなく、バスクとモンドラゴンを案内されたことが収穫でしたが、ジョンさんがそれを企図したのは、社会的連帯経済は自らの地域をベースにして「社会的イノベーション」を起こして、自ら創るしかなく、それをとおしてお互いの連帯もすすみますということでしょうか。社会的連帯経済は新自由主義に対して新しい地域社会を創るための対案であり、私たちも労働者協同組合や社会的企業を立ち上げることから始めたいものです。(2018.10.21平山昇)

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