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2018年9月28日 (金)

2018GSEFビルバオ大会の事前報告

明後日からスペインのビルバオで開かれる「2018GSEFビルバオ大会」行き、その報告会を10月21日にやるのだけど、松田社長から「報告会の資料を作るから、報告書をビルバオに行く前に書いてくれ」と言われたので以下を書いた。実際に見てきたことの報告は、10月21日に専修大学に行います。よろしくです。

2018GSEFビルバオ大会の事前報告:

10月1~3日にスペインのビルバオ市で開かれました「2018GSEFビルバオ大会」に行ってきました。GSEFは、Global Social Economy Forumの略で、グローバリズムの跋扈に対して社会的連帯経済をめざす世界各地の地域社会の連帯フォーラムで、韓国のソウル市長パク・ウォンスン氏の提起で2013年にソウルで社会的連帯経済をめざす「ソウル宣言」を発表し、2014年にソウル市で第1回大会、2016年にモントリオール市で第2回大会、そして今年はビルバオ市で第3回大会が開かれたところです。とりわけビルバオ市のモンドラゴンは、社会的連帯経済、協同組合関係者には「協同組合地域社会」のモデルあるいは聖地みたいな場所として知られるところで、今回は日本からも大勢の参加者がありました。

社会的連帯経済は、ヨーロッパでは社会的経済(Social Economy)として以前からあり、フランスでは1901年にアソシエーション法が制定され、2015年にはそれが社会的・連帯経済法になって、社会的連帯経済という用語は普通に使われており、その中身は共済組合や協同組合や保険会社やアソシエーションということですが、それが広く注目されるようになったのはソ連型社会主義が崩壊して、市場万能主義のグローバリゼーションが国家の垣根を越えて地域経済を破壊し格差を拡大することに対して、それまでの社会主義に代わる運動として起こってきました。協同組合の世界では、1980年のICA(国際協同組合同盟)モスクワ大会において、カナダのレイドロウ博士が『西暦2000年における協同組合』という「レイドロウ報告」と称される報告を発表して、そこに多国籍企業などからの危機に対して、「①世界の飢えを満たす協同組合、②生産的労働のための協同組合、③社会の保護者をめざす協同組合、④協同組合地域社会の建設」の四つの優先課題を提起し、②④のモデルとしてモンドラゴン協同組合が紹介され、知られるようになりました。しかし、当時の協同組合関係者の多くは、「かつての亡霊の復活」などとして、生産協同組合には否定的な対応が多数でした。

しかし、日本にも労働者協同組合運動に近いものとして、中西五州氏の労働者事業団や、1980年代のアメリカでのワーカーズコレクティブ運動に触発されての生活クラブ生協でのワーカーズコレクティブづくり、それに労働運動の分野では1970年代より企業の倒産争議における自主生産闘争が活発になり、1983年には7年間の自主生産闘争に勝利したパラマウント製靴が生産協同組合としてのパラマウント製靴共働社として成立し、1982年に起きた東芝アンペックスの争議も自主生産闘争を勝ち抜いて1990年には生産協同組合としてのTAU技研として成立、その他の小規模な争議自主生産闘争の結果による自主生産企業は現在が集まって「自主生産ネットワーク」をつくっています。関西でも1970年代から全金同盟関係の争議で自主生産闘争が行われ、関西生コンは協同組合と労働組合を一体化させた事業と運動を展開しました。また中曽根臨調の下に1987年から国労つぶしが開始され、解雇されて国鉄闘争団に結集した1047名の人々は各地に立ち上げた自主生産企業に拠って24年間にわたる闘争を継続し、2010年に200億円の解決金を得る勝利的解決をしました。

私は1970年代の半ばから生協で働き出して、生協の仕事をしながら下町エリアで社会運動に関わったわけですが、中小企業の多い下町の労働運動はパート労働者も多くて地域に密着しており、1984年には江戸川ユニオンという企業を超えたコミュニティユニオンが成立し、同じ頃に誕生した自主生産企業とコミュニティユニオンの組み合わせの中に、私はレイドロウの提起した協同組合地域社会の可能性を実感したものでした。また、1984年に発表された「日本社会党中期経済政策(案)」、後に「日本社会党の新宣言(ニュー社会党宣言)」と呼ばれた宣言が提起され、大内秀明氏が座長を勤め、その部分は新田俊三氏が書いたという「社会連帯部門」の内容は(※別紙参照)、いま言われる社会的連帯経済とさほど変わらない内容でありました。しかし、西欧型の社会民主主義政党をめざしたこの「新宣言」は、発表されるや共産党や新左翼から「社会党の右転落」という批判をあびて、1990年代に社会党は名称だけは社会民主党と変えたものの「新宣言」がめざした社会民主主義路線は実行されることなく、実質解体しました。やれたのはソ連崩壊の前に「階級闘争」&「プロレタリア独裁」を清算できたことくらいでしたが、ソ連・東欧の社会主義の崩壊後は、それに代わるものとして社会民主主義への回帰や協同社会や社会的連帯経済といったものの模索が行われだし、左派を称した人たちも「社会民主主義」や「非営利協同」や「協同社会」を語るようになったように私には思えます。

そんなで、今回のビルバオ大会&モンドラゴン訪問への私の関心は、①ヨーロッパにおける新しい社会運動はどうなっているのか、②モンドラゴンの協同組合社会のヨーロッパ社会への波及はどうか、③モンドラゴンの企業と労働組合の関係はどうかなどですが、もっと広くは、EU各国では新自由主義と反移民のポピュリズムが跋扈しており、フランスでのマクロン政権などは安倍政権と変わらない強健政治を行っているときくわけですが、④それに対する対抗運動とか、社会的連帯経済の動向だとか、⑤一時はギリシアの次はスペインか、イタリアか、ポルトガルかと言われた南欧諸国のその後の状況と協同組合のことなどです。1週間の短い旅でその全部などとても無理でしょうが、空気だけでも感じて来ようと思っています。(※本文は大会参加前に書いたために、実際に見てきたことの報告は、当日口頭で行います。)

上記の④とか⑤が気になるのは、かつて隆盛したヨーロッパ各国の協同組合は、1970年代には大型化した消費生協が倒産したり、株式会社化したりして衰退してしまったわけですが、欧米より少し遅れて隆盛した日本の協同組合も産業社会の衰退とともに衰退に向かうことが予想されます。そして、協同組合は社会的連帯経済をになう主力と位置づけられるわけですが、現状のままでそうなれるものかどうか。衰退しつつある労働組合について、協同組合関係者はあまり関心を持ちませんが、これまで政府がやってきたことは国労から関西生コンまで強い労働組合をつぶして、ゼンセン同盟みたいな御用組合にすることです。要は、産業民主主義の根幹が壊されているわけで、日本の産業民主主義が形骸化された後で、例えば政府が「これからは社会的連帯経済ですね、各協同組合のトップの方々に集まっていただいて諮問委員会をつくります」とかなっても、そんなものはムッソリーニ流のコーポラティズムにはなっても、社会的連帯経済にはならないでしょう。

資本主義の勃興期に、ロバート・オウエンは市場経済から弱者を守るためにコミュニティづくりを試みました。そこは労働運動と協同運動が一体となった世界であり、今また必要なのはこれまでの消費型生協や企業内組合ではなくて、オウエンが構想したような「コミュニティ型協同組合」と「コミュニティ型労働組合」であり、それが一体化して支える社会的連帯経済によるコミュニティだと私は思います。そして時代がここまで来れば、社会的連帯経済は研究対象ではなくて実践対象であり、それは遠い将来にあるものというよりは、マルクスにならえば、社会的連帯経済をつくる運動の実践の中にあるものであります。以上、よろしくです。

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