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2017年3月22日 (水)

【キクオのヒキダシ】

社長なのに金のない社会評論社の松田社長と日高屋あたりでちょい飲みすると、「これおもしろいから読んでみて」と新刊本をいただくことがあり、「叢書【キクオのヒキダシ】」シリーズで加藤幸治『復興キュレーション』、大西大『雲のうえの千枚ダム』の二冊をいただいたので読んだ。昨年の秋に出版されて、私もこのブログに書評を書いた青木孝平『「他者」の倫理学』が、めったに増刷にならない社会評論社の本ではあるけど、「500部増刷になった」と松田社長は今でも喜んでいるから、『復興キュレーション』と『雲のうえの千枚ダム』が1冊でも多く売れるようにと、Amazonに提灯書評を書いたところ。おもしろいから、読んでね。

1『復興キュレーション』評
内容は、3.11東日本大震災によって被害を受けた博物館及びそのコレクションのレスキューの話で、著者は東北学院大学の民俗学の先生、教え子の大学院生と学生をひきいて牡鹿半島の鮎川浜にあった石巻市鮎川収蔵庫、鯨博物館の復興をめざした6年にわたる文化財レスキューの記録である。「キュレーション」とは何かというと、学芸員のことを英語でキュレーターと呼びますが、「キュレーション」とは著者の造語で、「情報の収集・整理・分類・保管・管理、そしてそれをある意味ある形で社会に提示する活動をさす言葉」として広めたいとする。「個々の経験を、震災の〈記憶〉の継承や教訓のようなかたちで一般化するのではなく・・・人生の数だけエピソードがあるという事実に、わたしは極めて重要な意味を見出しています。エピソードの集積から地域のくらしのイメージを共有し、それを復興していく地域社会のこれからについて構想する材料としてもらうのが、わたしたちの地域への関与のアプローチです」。「わたしたちは、展示やワークショップを通じてくらしのエピソードを集積しながら、地域の人びとが生活の歴史において大切にしたいと考えるローカルな価値の掘り起こしを行ってきました」。「わたしの考える文化における〈より良い復興〉とは、人々が被災経験を通じて、地域文化の再発見、再解釈、そして再定義をこころのなかで進めることによって、その地域で生きていくことへの意味を創り出していくことです」とある。『復興キュレーション』を読むと、柳田国男の『遠野物語』では難しくてわからないという人でも、読むことによって民俗学をフィールドワークできる。日本の近代社会が、西洋の誤読によってゆがまないように、柳田国男は『遠野物語』を書いた。同じように、大震災からの復興がハコモノ建設で終わらないように、著者はこの本を書いている。民俗学とは何か、人文系の学問とはどういうものなのか、読みながら学べる好著です。

2『雲のうえの千枚ダム』評
著者は大学で考古学を学んで、20代で中国に留学し、本書は著者が30代の終わりから10年近く海南島と雲南でフィールドワークして、「自分が育った生活世界とは、まったく異なる生き方があることを自ら知るという、異文化体験」記である。「調査に深く埋没していくにつれて、考古学では明らかにできない、たくさんの物語がフィールドに隠されていることに気づいた」、「現地に出かけて自分の目でみて人と出会い、本やテレビやインターネットなどの情報による自分の常識が壊れていくおもしろさはやめられない」という。その後、再び日本で調査するようになった著者は「国や民族や歴史の違いはあっても、人が自然のなかで生きていく上で、共通する原理のようなものがあるのではないかと思うようになった。その一つが〈身の丈にあった知恵と技術〉が、活きている時代、地域ほど、〈身の丈にあった知恵と技術〉に多様性があるのでは、ということである」として、江戸の終わりに房総丘陵にくり貫かれた二五穴や、茅野市の台地を潤す坂本養川といった灌漑水路を紹介して、「坂本養川や二五穴は百数十年たっても、人にも自然にも迷惑をかけずに立派に現役で活躍し、メンテナンスさえしっかりすればこれからも使い続けることが可能だ。戦後発明された某原子力発電所は約40年で破綻したが、人が作り上げたシステムとしては江戸の終わりの発明のほうがはるかに優秀だ」としている。写真が豊富で、読みながら雲南はベトナムに近い山里での生活が体験できる。既成理論になじんだ頭をリフレッシュするには、とてもいい本です。

この二著に、柳田国男の『遠野物語』と宮沢賢治を読み足せば、3.11東日本大震災からの東北の復興の道筋が見えてくるのではあるまいか。

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