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2012年7月22日 (日)

つゆのあとさき

※7月に入った頃より、昨年来障害のある右耳がまたおかしくなって、7月9日に病院に行くと、即入院となったのだった。

先週はじめからの入院は、今日で点滴治療が終わり、明日は検診もないというので、予定より2日早く今日退院しました。12日間の点滴治療をしましたが、右耳の聴力は回復せず、引きつづき通院です。入院中は、朝食後に検査と診察、それが終わると点滴が始まり、昼食を挟んで午後1時か2時には点滴も終了。その後は先生が「歩いた方がいい」と言うので歩行とシャワー、夕食を挟んで眠りにつくまでずっと本を読みました。

パソコンとインターネット、飽食と飲酒とも隔絶された日々で、まるで山の上の保養所に療養する毎日でありました。当初困ったのは、エアコンで隔絶された空間。我が家にはエアコンが無いから、身体が慣れずに寒いやら何やら、毎日パジャマの上にジャケットを羽織っておりました。そして、一番困ったのは、寝つかれないこと。初日、二日目と、夜半窓辺に当たる雨音に、明け方まで本を読むしかありませんでした。

病院は順天堂大学病院系の高齢者医療センターで、新しくて設備も良くホスピタリティーも高く、ことのほか快適でありました。それで、持参した『樋口一葉全集』全4巻+1巻は、1週間で読み終えてしまったのでありました。「+1巻」と言うのは、私が購入した小学館の『樋口一葉全集』は、1979年に出版された初版でありましたが、1996年に復刻された時に、第4巻の「評伝」部分が全部改められたので、第4巻については復刻版を図書館で借りて、両方読んだのでありました。

樋口一葉と言えば、『たけくらべ』、『にごりえ』、『おおつごもり』、『十三夜』といったところが知られていますが、それ以外の全小説と『日記』を読めたのは正に入院のお陰で、「なるほど、あの日記を書いている時に書いていた小説がこれか」と、生活と創作が同時に分かるのでした。ほかに、最初の1週間で、家から持参した永井荷風の『すみだ川・新橋夜話』(岩波文庫)も読みました。

それで、先週末には読む本が無くなりそうだったので、午後、病院を抜け出して少し散歩を試みました。本当はかみさんに電話して、適当な本を届けてもらう予定で、散歩は何処か昼間から飲める居酒屋でもないものかと、駅を超えて居酒屋探しをしたのでありますが、昼間からやっている居酒屋はなくて、代わりに古本屋があったのでありました。

古本屋の店頭には、だいたい1冊100円程度の無価値な本が投げてあります。大して期待もせずにそこを見ていたら、1960年代に出た『日本文学の歴史』(角川書店)と『日本の歴史』(中央公論社)がまとまってあったので、その近代の部分を計8冊買いました。きれいな厚い本なのに、なんと8冊で800円です。

次に店内を見て回ると、伊藤整『日本文壇史』(講談社文芸文庫)1巻と2巻、永井荷風の『つゆのあとさき』(岩波文庫)があったので、これを買いました。これは、3冊で1160円でありました。まあ、これくらいにしておくかと思って帰りしな、また店頭の安売り本をみていたら、レイモン・チャンドラーの『長いお別れ』(早川文庫)が、なんと50円でありました。

『長いお別れ』(早川文庫)は、すでに持っていて、3回も4回も読んだのでありましたが、そのせいでボロボロになっていましたから、それよりかはきれいな本が50円とはあまりに不憫と思って、それも買ったのでありました。ついでに、古本屋のオヤジに、なぜ『日本文壇史』が490円で、『長いお別れ』は50円なのかと訊いたら、謂はば希少性故とのことでありました。

それで、左腕は点滴の針がささったままで力が入らないので、重い本を片腕で持って、病院へ帰ったのでありましたが、途中の公園で一休み。風に吹かれて汗を乾かし、とても満足した気分になったのでありました。そして、その夜からは、それらの本を読んだのでありました。

そして、今日退院するまでに、『日本文壇史』1巻と2巻と『日本文学の歴史』を3冊、それに永井荷風の『つゆのあとさき』を読んだのでありました。今日、最後に読み終えたのは『つゆのあとさき』。題名など気にせずに読み始めたものなのに、この物語は梅雨の最中に始まり、梅雨明けとともに、永井荷風には珍しく、素人女性のハッピーエンドに終わる話でありました。

なるほど『つゆのあとさき』か、と思った次第。思えば私の入院も、梅雨の最中に始まり、気がつけば、梅雨も明けて終わったところ。病状には、ほとんど目立った回復はありませんでしたが、人生でこれほど集中して本を読んだこともありません。昨日は、友人のKENZOUさんとムツさんが見舞いに来てくれて、ここぞとばかりに外出して、一杯飲みました。

この間、KENZOUさんは中風で、ムツさんは腸ねん転で1カ月の入院を経験していて、「この歳になったら、こんなものだ。耳の片方くらい聴こえなくなったって、どうってことないじゃないか」みたいなことを言い、まあそうかもと思いながら、病院の夕食の時間ぎりぎりまで飲んだのでありました。

というような訳で、気分は落ち着いておりますので、ご心配無きよう。多少ふらふらはしながらも、つゆのあとをどう過ごそうかと、思うところであります。

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