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2007年1月13日 (土)

歴史は連鎖する

 柄谷行人氏が『世界共和国へ』を解説したインタビュー(「文学界」06年8月号)の冒頭で宇野経済学にふれ、「宇野の『資本論』の理解はユニークで、大方のマルクス主義者からは非難されていました。たとえば、宇野は、史的唯物論はイデオロギーであるが、『資本論』は“科学”であると言っていました」「宇野弘蔵は学生に何も政治的なことをいわなかった。君たちは何をやってもよい、しかし、君たちがどう考えようと、資本制経済の原理は貫徹される、といいたかったのだと思います」と言っている。

Photo_3  実際、宇野弘蔵氏は『「資本論」と社会主義』(岩波書店1958)で、Q君に答えるかたちで、「僕には、唯物史観に所謂上部構造と学問的研究の成果としての学説とは別個のものだとしか考えられません」「そういう点で僕は非常に簡単に学問の成果を全く客観的真理の把捉にあると考えています」(p117-119)と書いている。

 このあたりが、「正統派」の大方のマルクス主義者から、「国家論がない」とか「階級性がない」とか言われて訳も分からず非難された所以であったのだろうが、これは、先に書いた吉本隆明氏の「わたしは、〈マルクス〉主義者と自称しているじっさいは1910年代以後に発生した、マルクス思想のロシア的形態の信奉者のいうことを一貫して信用してこなかった」(「マルクス紀行」1964)にもつながっている。

 吉本隆明氏の『共同幻想論』(河出書房1968)は、正統派マルクス主義の国家論、エンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』におけるモルガン流の国家の起源に対して、「自己幻想-対幻想-共同幻想」のシェーマを提起した、いわば国家論なのだが、柄谷氏の「資本=ネーション=国家」という国家論は、宇野弘蔵氏や吉本隆明氏の論を踏襲して発想されているのではないかと、私には思える。これは、だからいけないというのではなくて、それでいいのだ、論や歴史の継承とはそういうものなのだ、ということである。

 日本のマルクス主義は、60年安保を経て、「正統派」を批判する新左翼が多数登場し、新左翼は、新たに編纂された『ドイデ』を読み直したりもしたが、唯物史観の信奉と社会主義への所有論的アプローチは相も変わらず、結局、ソ連がこけ、イデオロギーによる呪縛がとけたら、みな胡散霧散してしまった。

Ouchi3  一昨年、大内先生は、かつて書かれた『価値論の形成』の続編にあたる『恐慌論の形成』(日本評論社2005年7月20日)を出版された。40年ぶりの続編であるが、ここで言わんとしていることも、師の宇野弘蔵氏と同様に、「資本制経済の原理は貫徹される」ということである。師の宇野弘蔵氏が、たとえマルクスが『ドイッチェ・イデオロギー』で唯物史観を展開しようと「上部構造と学問的研究の成果としての学説とは別個のもの」としたように、大内先生は、ソ連の崩壊、マル経の低迷なんのその、「恐慌論の復権」を提起されたのだった。

Photo_4  『恐慌論の形成』が出たのとちょうど同じ頃に、山室信一著『日露戦争の世紀』(岩波書店2005年7月30日)という本が出て、新聞の書評に次のようにあったので、惹かれて読んでみた。
 「ロシア軍による虐殺事件を題材に作られた旧制一高の寮歌「アムール何の流血や」のメロディーが、メーデー歌「聞け万国の労働者」や軍歌「歩兵の本領」、学生運動の「暁民の歌」に使われたこと。・・・意外な「連鎖」から、歴史が新たな顔を見せる」と。

 そして、その本文には、以下のようにあった。
 「近代日本の歴史的位相をグローバルな視野のなかで捉えていくためには、欧米やアジアさらにはアフリカなどと日本が実際にどう繋がっていったのか、またどう切れていったのか、を見きわめていくための視点が不可欠なように思われます。それを本書では、「連鎖視点」として設定しました。これについては「あらゆる事象を、歴史的総体との繋がりの中でとらえ、逆にそれによって部分的で頂末と思われる事象が構造的全体をどのように構成し規定していったのか、を考えるための方法的な視座」と、ひとまずは定義しておきたいと思います。
 この連鎖視点は、時代を超える連鎖の相と、空間を超える連鎖の相とを、ふたつながらに捉えていこうとするものですが、言うまでもなく、人と人とが織り成す社会では、さまざまな出会いや出来事のなかに思いもかけないような繋がりを見出すことができることを私たちは経験的に知っています。というよりも、人間の社会は、時間や空間を超えつつ、しかも繋がっているはずのものですから、どこかで何らかの繋がりを見出すことは不可能ではないのでしょう」。

 そう、時空を超えて、世界はつながっているのである。(つづく)

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