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2006年4月 8日 (土)

モリスとベラミー

 モリスとベラミーのちがいというのは、イギリスとアメリカのちがいなのではないでしょうか。大内先生のおっしゃるように、アメリカには歴史的な共同体はありませんが、その原点に、植民者によるコロニーがありました。そして、この植民者たちは、イギリスを追われたピューリタンや、植民地で一旗上げようとする人たちでありました。

 アメリカは、カアルヴィニズムと、アダム・スミスが評価するように純粋に市場経済が花咲いた地であり、ヨーロッパの近代主義の理念が花開いた世界でありました。歴史のない新世界であるが故に、アメリカは理念先行が可能な国なのです。

 ですから、マルクスを読んだモリスは、イギリス社会の歴史と伝統を背景に『ユートピアだより』を書いたのに対して、ベラミーが共産主義社会を思い描くとすれば、歴史や文化が捨象された『かえりみれば』のような機能的なユートピアを描くことになるのだと思います。文化的には、せいぜい現在のインターネット配信を連想させる電話による音楽の配信とか、ディケンズの評価くらいですね。

 ヨーロッパに生まれた近代主義は、19世紀末にニヒリズムを生み出し、世紀末から20世紀にかけて、ヨーロッパ文明の危機と世界大戦を経る中で、思想的には現象学や分析哲学を生み出し、政治経済的には社会民主主義的な制度から、現在のEUに至る道を歩んできました。

 それに対して、2度の世界大戦を通じてパックスアメリカーナを実現したアメリカは、ヨーロッパで挫折した近代主義を、アメリカ型の自由主義と民主主義の理念をもって再構築して、ドルと軍事力をもって、これを世界中に広めようとし、これがグローバリズムからイラクでの無謀な戦争につながっているのだと思います。ブッシュは、バカはバカなりに、キリスト教原理主義を背景に、市場原理主義的自由主義と民主主義は普遍的であるとする、民族や歴史や文化を捨象した、このアメリカ型の近代主義的理念的を世界中に押し付けようとしているわけです。かつて、西部邁氏が朝日新聞に「アメリカは左翼主義国家だ」と書いていましたが、そういう意味であるのだと思います。

 合理主義思想や市場原理主義の経済学はイコール普遍的ではなく、それを押し付ければ、固有の文化と衝突します。また、市場原理主義を「科学的」と称する機械的なマルクス主義経済学に置き換えれば、ソ連によるかつてのソ連型社会主義の押し付けにも、似たところがありました。要するに、近代主義的な理念に基づいた機能主義的な社会観の押し付けという点では、アメリカもソ連も同じなわけですね。

 ベラミーの描いたユートピアは、歴史や文化が捨象されたあまりに機能的な世界観による共産主義的ユートピアであり、そのせいでやがて忘れられ、モリスの描いたユートピアには、その背景にイギリス社会の歴史と文化があり、引きつづき見直されるだろうというのが、モリスとベラミーのちがいであるのでしょうか。

 それにしても、約150年前の黒船=アメリカによる脅迫的な開国以来、日本は近代化をすすめてきて、国粋主義から左翼主義までも経過しながら、敗戦と戦後のアメリカによる民主化を経て、現在、バカのブッシュの盟友の小泉内閣によるアメリカ型、理念的な市場原理主義社会へのシフトを強めています。

 約100年前に、堺利彦は幸徳秋水らと『平民新聞』を創刊したわけですが、1910年には大逆事件によって幸徳秋水は処刑され、その後のロシア革命の影響によって、日本の左翼思想のボルシェビキ型へのシフトが始まりました。
 話が飛びますが、現在の民主党の混迷とも併せて、いま一度「新しい社会」のあり方を考え直してみたいものです。

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コメント

 ベラミ―とモリスの違い、論争を知って、社会主義の歴史の根深さを改めて認識した点で貴兄と一緒に良い勉強になりますね。ベラミ―の背景に、コロニーやピューリタン主義があること、それが機能主義的になり、国家社会主義やソ連型共産主義の原型になつた点は貴兄の説明で良いと思います。モリスのように、中世の共同体・ギルドをてこにした近代主義、産業主義・工業化社会への批判としてのユートピア社会主義ではなかった。イギリスとアメリカ、ロシアの歴史的・自然的風土の差異を感じます。
 もう1点、ベラミ―はモリスと違いマルクスとの関係が無いと思います。モリスは仏訳『資本論」を2度も読んだ。当時英訳が無いのでベラミ―は読んでいなかったと思います。せいぜいエンゲルスの影響の強かった唯物史観・『空想から科学」ではなかつたか?その辺の違いもあるかもしれません。 

投稿: 大内秀明 | 2006年4月13日 (木) 13時07分

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