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2006年1月31日 (火)

『二都物語』とジャコバン革命

 cd ディケンズ『二都物語』を読んだ。二都とは、ロンドンとパリのことである。物語は1767年から1793年にかけてのことであり、クライマックスは1789年のフランス革命とジャコバン主義の渦巻く1793年のパリである。フランス革命を背景にしているとはいえ、この小説は社会的な歴史小説であるわけではなく、ディケンズ流の読み物であるが、そういった評価とは別に、現代から見ても興味深い構成になっている。

 物語の中心人物は、一人の女を愛した二人の男である。女の愛を射止めたのは、元フランス貴族のチャールズ・ダーニーで、彼はアメリカ独立戦争でアメリカの味方をしたという理由でイギリスで裁判にかけられるのだが、彼の弁護士の手助けをしていたのが主人公のシドニー・カートンで、後にフランスに戻ったダーニーがジャコバン派によってギロチン刑にかけられる寸前に、カートンがその身代わりになって断頭台に送られるというのが、物語の中心である。

 物語の時代背景には、アメリカの独立戦争がある。アメリカは1776年7月4日に『独立宣言』を発表し、イギリスとの独立戦争の後、1783年のパリ条約でイギリスはアメリカ合衆国の独立を承認した。イギリスとフランスは、17世紀以来、インドやアメリカ大陸の植民地をめぐって戦争をつづけていたが、イギリスは戦争に勝ち、フランスはアメリカ大陸ではアメリカの独立を応援したものの、旧制度(アンシャン=レジーム)の下で抑圧体制をつづけたフランスでは、アメリカの独立も契機になって、1789年に革命が起こった。

 アメリカ建国は、1620年にメイフラワー号でプリマスに移住した102名のピューリタンに始まるが、王権神授説を唱える国王と新興階級であるジェントリーやヨーマンとの抗争がつづいたイギリスでは17世紀末に名誉革命が起こって、国王に対する議会の優位が確認された。その後、マニュファクチャーが進んだイギリスでは、アメリカの独立宣言が行われた1776年にアダム・スミスの『国富論』が出版され、資本主義の形成が始まっていた。

 イギリスにおけるチャールズ・ダーニーの裁判では、弁護士の弁護と陪審員による評決でチャールズ・ダーニーは無罪になり、フランスでは、イギリスへの亡命貴族だという密告とジャコバン主義下の熱狂の中で、彼の断頭台送りが即決される。

 私たちは明治の中江兆民以来、ルソーから民主主義を学んで近代市民社会を考えてきたし、フランス革命でマリー・アントワネットが断頭台に送られるのは、それまでの抑圧者階級であったのだから仕方が無い、革命とはそういうものだと思って、さらにロシア革命も中国革命も見てきたきらいがある。
 しかし、昨年に読んだトクヴィルの『アメリカにおける民主主義』の問題意識もそうであったが、フランス革命とジャコバン主義の教訓は、民主主義を徹底すると、それは独裁政治に転化してしまう危険性があるということであり、
いま思えば、それはどの革命にも当っている。

 フランス革命におけるジャコバン主義、「自由、平等、博愛、しからずんば死か」という独裁と粛清をともなう「(“人民の意志”と称する)人民主義的共和主義」が、隣国のイギリスに与えた影響は大きく、それがディケンズの『二都物語』が読まれる背景にあったのだとも思われる。1848年にヨーロッパ各地で起こった2月革命は、当時のイギリスのチャーティスト運動にも影響を与えたが、名誉革命(イギリス人はこの無血革命を誇ってGlorious Revolutionと呼んだ)の国のイギリスでは、いわゆる革命は起こらなかった。

 幼い頃貧しくて苦労したディケンズは、19世紀イギリスの産業社会の興隆の中で多くの読者を獲得して、自らは莫大な印税を手にしたようである。ディケンズの読書は、あと『クリスマス・キャロル』でとりあえず終わりにしようと思っている。

 一方、新大陸が発見されて貿易が興隆する中で、イギリス、アメリカ、ヨーロッパの関係は、個別に成立するものではありえなくなっているのも分かる。イギリスのピューリタンがアメリカに渡り、アメリカ革命はフランス革命に影響を及ぼし、フランス革命はまたイギリスに影響を及ぼすように、いうなれば、既にグローバル化が始まっているわけである。

 前回のブログに大内秀明先生から以下のコメントをいただいた。「『二都物語』よみましたか?ディツケンズはじめ、スミスなど、当時は新大陸=アメリカ、仏革命=パリを強く意識していたんですね。マルクスもイギリスで市民権が採れず、アメリカに渡ろうと考えていた位ですから。ディツケンズとマルクスは直接関係ないようですが、2人が同時期に大英博物館の図書室で勉強していたそうです。」と。そんなで、ついでにその辺りも少し整理できたらとも考えている。

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