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2005年6月11日 (土)

ロバート・オーウェンと“ニューハーモニー”の失敗

owen  「中里介山『大菩薩峠』とコミューン」のところで少し触れたが、『大菩薩峠』の物語は1853年のペリー来航の年に始まり、日米開戦の頃に、その最後の章にロバート・オーウェンを語る西洋人を登場させたところで中断し、終戦を待たずして中里介山は死んだ。このことと中里介山の提起したものは、けっこう重い。

 ひとつは、日本とアメリカの関係である。日本とアメリカの関係が始まって、約150年が経った。日本は、黒船で脅されて無理やり開国させられ、和魂洋才、臥薪嘗胆とアンビバレントな感情で欧米に対応しながら、一度はアメリカに反抗してみたもののボコボコにされてしまい、その後は日米安保条約を結んで、自らはひたすら経済成長を追及し、アジアの国々に対しては大して詫びもせずにやってきた。そして昨今の日本は、アメリカ型市場経済が世界中を席巻するのに合わせて、アメリカの圧力の下に自らをますますアメリカ化させつつあるが、アジアの国々との関係も含めて、果たしてこれでいいのかという問題である。

 もうひとつは、中里介山が追い求めた「理想社会」についてである。前にも書いたが、中里介山はお銀さまと駒井の殿様という二人の登場人物に、それぞれ国家社会主義型とロバート・オーウェン型の「理想社会」の追及をさせる。お銀さまが企てた国家社会主義型は直ぐに失敗し、『大菩薩峠』の最終章で、駒井の殿様は同志を集めて「理想社会」を創るべく南の島へと向かうのだが、たどり着いた南の島にはすでに西洋人がいて、駒井の殿様にこう語るのである。

 「駒井さん、あなたの理想はよくわかります。地上に理想郷を作ろうという企ては、今に始まったことではないのです。・・・最近では、ロバート・オーウェンという人が、それを実行しました。・・・」・・・
 「もう少しくわしく、その人のことを話してみてください」
 「およそ自分の理想の新社会を作ろうとして、その実行に取りかかって、失敗しなかったものは一人もありません、みな失敗です。駒井さん、あなたの理想も、事業も、その轍を踏むにきまっています、失敗しますよ」

 この結論は、先の「ワーコレとコミューン」に書いた「成功したコミューンなどあるのか」という問いと同じで、『大菩薩峠』の最終章を読み終えた時は、目から鱗ではあったのだが、そもそも私のこのブログのモチーフと出発点は、まさにそこからなのである。
 トルストイアンであった中里介山は、羽村に西隣村塾という印刷所まで備えた謂わばミニコミューンをつくり、そこに拠って時代をしのいだ。それとアナロジーするつもりはないが、私はこの春から足立区千住関屋町の自主生産企業「パラマウント製靴共働社」の2階を借りてNPO自主事業サポートセンターを起し、そこに自らのDTP仕事の事務所を構えた。そして、私にとっての「理想社会」は、ここから始めるのである。

 私の問いはこうである。「では、なぜロバート・オーウェンは失敗したのか」である。
 ロバート・オーウェンの失敗とはいっても、ロバート・オーウェンは失敗の人生を歩んだ人ではない。ロバート・オーウェンを「ユートピア社会主義者」と呼ぶのは、マルクス主義者の悪い揶揄で、ロバート・オーウェンの人生は、思想、実業、社会運動のどれをとっても、その実践は輝かしいものである。
 ロバート・オーウェンの失敗とは、イギリスのニューラナークでの工場運営に成功を収めたロバート・オーウェンが、より広い土地でのコミュティ・プランを実践するために、1825年にアメリカのルイジアナ州のニューハーモニーで「理想社会」の実験を始めたが、わずか2年で崩壊したことである。

 では、失敗の原因は何なのかといえば、一言でいえば、20世紀末の社会主義の崩壊を先取りしたミニ社会主義の崩壊である。準備や資金の不足もあったであろうが、閉ざされた共同体的空間で、理念を当てにした人々が、共有社会であるが故の生産への動機づけを欠けば、生産は回らず、物資も不足し、やがて統制と諍いが始まるのは目に見えている。
 当時の資本主義の野蛮さから弱者を守るのに、組合やコミュニティをつくることは有効であったとしても、それが市場経済の中で成り立つ仕組みをつくらなければ継続は難しい。また、市場経済とは別に農業主体の共同体をつくるというやり方も考えられるが、かつての中国の人民公社ではないが、その社会はだいたいは長老支配による自由の領域が乏しい悪平等社会になってしまうのである。

(以下、事項)

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